25年前、かみいぐさの生みの親「金刺潤平」は、イグサ刈りの季節労働者として初めてイグサと出合う。
朝4時から夜8時まで1カ月半、雷が鳴らない限りイグサを刈り続けた。バリカンと呼ばれる刈掃い機で刈ったイグサを長尺のものだけ選り直径20cmくらいに束ね、トラック一台分になるまで積み上げていく。
量が揃ったところで乾燥小屋まで運び、秘伝の染土を溶かし込んだ水に潜らせた後、乾燥機に隙間無く立てて並べ、一晩中ボイラーを焚いて下から熱風を送りこんで乾燥させる。それを保存用の袋に入れて倉庫に積み上げるという熊本県城南地区でもっとも賃金の高い労働だった。
それから10年、和紙職人になった金刺のところへ「イグサが売れない。別の使い道を探して欲しい。」という便りが届いた。
日本の家は、西洋化されて畳を必要としなくなっている。わずかに残る需要も安価で均質のものが揃いやすい中国産のものに押されっぱなしだった。
高額な機械を導入し続けて行われてきたイグサ栽培、畳表産業は、農家を舵取りができない状態にまで追い込み、絶望して自殺する農夫の数は50人を超えていた。金刺は若い頃に可愛がってもらった農家に恩返ししなくてはと廃棄される短尺のイグサを使った紙作りの研究を始めた。
金刺はイグサを使っていろんな実験をした。
イグサは、畳表、茣蓙に使えるくらい表皮が頑丈な植物だ。室内の環境を守ると言われているけれど、そのままでは、力が発揮されない事は予想できた。ある日顕微鏡でいぐさの切り口を見て、驚いた。
イグサの表皮や繊維は何の変哲もなかったが、髄の部分に、きらりと光る肉眼では見えない光の粒が見えたのだ。光の粒は小さな水滴だった。いぐさは沢山の星の形をしたわずか10μmの星状細胞からできていて、その隙間に沢山の小さな水滴を蓄えていたのだ。
他の植物には無い、イグサだけの潜在能力を見つけた瞬間だった。研究を進めるうちにいぐさが脱臭機能やホルムアルデヒド等の有機化合物等の吸着機能がある事も分かった。この細胞を前面に散りばめて壁紙を作りたい。きっと、このイグサの持っている力が、変化の激しい日本の四季、エアコンなどの文明がもたらす急激な湿度の変化や、多様な化学物質を使用した現代の建築から屋内の環境を守ってくれるに違いないと。
そして2002年。試行錯誤の末、ついに調湿能力に優れた、化学物質も吸着する「無廃棄物イグサパルプ」を開発し、壁紙や襖として活用することに成功し今に至っている。
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